



そして、パパの愛する人は、悲しそうに微笑んでうなずいた:
わかったわ
パパはまずスイスに行くと言っていたの。だけどわたしたちのパスポートには(ドイツ語だったけれど)大きな太い赤い字でユダヤ人の印である「J」と付け加えられていることがわかったの。スイスはその文字が好きじゃなかった。「私たちはユダヤ人を受け入れるでしょう」と礼儀正しいスイス人は言うのよ。「だけどあなたたちは受け入れません。すでに多すぎるくらいのユダヤの方々を受け入れているのですから。」って。
ママはベルリンの友達からの手紙を受け取って、それを何百回も怒りながらパパに読み聞かせたわ。「私たちは一週間かけてフランスとの国境まで旅して、さらに国境を超えてからも道を案内してくれる人を待って数泊しました」 何日もかかる旅なんて!ママは年取った母親(そう、わたしたちのおばあちゃん)を苦しめることなんてできないわ。
どうしたらいいの?ほかに方法がある?まだなにか道が残されているかしら?ある夜、パパはダウンタウンから戻ってきて、こう言ったわ。ここから出ていく方法をみつけたぞ。ビザなしで受け入れてくれる場所がある。
上海。
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