


はい
ヤン・ズヴァルテンディクはしばらく考えたあと、ため息をついてからこう書いた。最初はニーサンの、それからハイムのパスポートに。
「カウナスのオランダ領事館は、キュラソー島とスリナム島に入るのにビザは必要ないことを認めます」
もちろんニーサンとハイムは、キュラソー島にもスリナム島にも行かないよ。だけど、一刻も早くこの場所から離れることが必要なんだ。ソ連が支配するこの場所から。アメリカに行かなくちゃ。アメリカだけが唯一彼らに残された場所だ。シベリア鉄道でウラジオストクまで行き、そこから日本まで行く。日本のユダヤ人協会は必ず助けてくれるだろう。アメリカのユダヤ人たちからサポートを受けているし、ユダヤ人は絶対に仲間を見捨てないから。



その後、学生二人は日本領事館に向かった。杉原千畝領事から日本の通過ビザを発給してもらうのだ。日本にはたった10日しかいられない。いられないけれど、この2つの印鑑があればいい。最終目的地であるキュラソーのビザと日本の通過ビザ。これがあればソ連の出国許可が下りる! それから、彼らはアーロンの腕を掴んで、ヴィリニュスに向かった。アーロンは変な具合にまばたきしながら、彼らのあとをついて回っていた。ヴィリニュスはもはや赤い旗をもったソ連の赤軍の街。嬉しそうな人々と怯えた人々であふれかえっている。笑っている人々と泣いている人々がぐちゃぐちゃになっている中で、アーロンの家族を見つけようとした。家族の分もビザを発給してもらうんだ。そして人はヴィリニュスユダヤ人協会のゾラフ・バルハフティック(3)を訪ねた。バルハフティックは彼らから話を聞き、カウナスに戻るようにと言った。それから、自分自身はオランダ領事のズヴァルテンディクのところに行って、こう聞いた。 もしほかの人がお願いしても、同じようにパスポートに認可を書いてくれないだろうか?
ヤン・ズヴァルテンディクは了承してくれ、バルハフティックはそれをヴィリニュスのユダヤ人みんなに伝えた。そうしてオランダ領事館に人々が殺到する。そう、これが有名な「ビザの話」の始まりだよ。ラジオさんはね、もう「ラジオさん」じゃない。新しいあだながつけられた。「キュラソーの天使」ってね。


これが、元々はラジオやカミソリのセールスマンだった人に起こったことだ。ズヴァルテンディクはね、わざと間違った文字でビザを発給した。つまりさ、ほとんどニセモノといってもいいビザを発給したんだ。その後、数日で1000枚以上のビザを書いたし、その後にはゴム製の印鑑をもらってさらに早く仕事ができるようになって、もっともっと次から次にビザを発給した。1500枚ものビザだ。もう発狂しそうな勢いでめちゃくちゃに仕事をした。だけど、だんだんと彼は恐怖に押しつぶされそうになった。だっていくらビザを発給しても、日本の通過ビザがなければ意味がないんだ。日本の通過ビザは、今や彼らみんなの命綱だった。
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