誰の子供?

泣くのをやめて話を聞いてくれ、とおじさんは言った。泣くのはやめるんだ。赤ちゃんが怖がるじゃないか。いいか、最後まで聞くんだ。もうちょっとなんだから。

「私は虐殺から3日目にようやく家を出た。犬を鎖からはなすと、犬は納屋に駆け寄り、鳴きながらドアを引っ掻き始めたんだ。私はパン切りナイフで武装して、重い錠前を開けた。犬が急いで中に入る。私もそれに続いた。納屋の中では、去年積み上げた藁の山の下に、その暗闇の中に、4つの目が光っていたんだ。二人の子どもだよ。ちっちゃくて全裸で、固まった血と土で汚れた女の子。それから、もう一人。汚れた少女より少し年上の子が、彼女を抱きしめていた。

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6歳くらいのハンナと、8歳のリフカだ。ハンナの母親は、銃声が始まる直前にハンナを橋から穴に突き落とし、自分の体で少女に覆いかぶさったんだよ。そうやって、ちょっとした隙間を作った。

その時はもう夕方で、撃ってる人たちも石炭を撒く人も、疲れて喉が渇いていた。できるだけ早くこの血まみれの仕事を終わらせて、町の食堂に行きたいって急いでいたんだ。そこでは、毎回彼らへのご褒美として山盛りのウォッカとおつまみが待っているからね。夜になって、銃声が長いことしずまった時、ハンナは穴から体を掘り出した。ちいさな体で重い死体の山から頑張って抜け出したんだよ。それから、鍵のかかった納屋を見つけた。そして板が2枚壊れてできた穴から、中に忍び込んだんだ。そこにはすでに藁に埋もれてリフカがしゃがんでいた。納屋の壁を壊して穴を作ったのはリフカだった。

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リフカはここらの医者の娘だった。死へと向かう行列が森の中を無理やり歩かされてゆく時、父親はリフカを藪の中に突き落としたんだ。列を率いていた白い腕章の一人がそれを見ていたけれど、背を向けて気づかないふりをしてくれた。以前-あの平和な時代-には、この医者が、その白い腕章の男の子供が死にかけていた時に、救ったことがあったのだ。」

おじさんは、震えてお腹をすかせている二人の女の子を、家に連れて帰り、血と土で汚れた小さなハンナを洗うためにお湯を沸かした。朝になると、おじさんはヴァスクィまで自転車で行き、姪の夫、つまりメイドのお兄ちゃんを見つけ、馬で迎えに来てくれるように頼んだ。馬はまだ馬具につながれたままだから、もしかしたら妹のメイドが馬の世話をしてくれるかもしれないよな? もしかしたら妻も、出かけることに反対しないかもしれないよな?って考えながら。

外はもう暗い。納屋の壁の隙間から灯油ランプの明かりが踊っているのがみえる。馬車には小麦粉の袋が積んであった。おじさんがその中の一つを持ち上げると、そこにいた。毛布に包まれた二人の少女が、小麦粉の影に隠れていたんだ。

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「姪っこよ、どうか助けてほしい、この年老いた愚かな私を。うちの森は安全じゃないのだよ。白い腕章の軍隊が戻ってくるかもしれないし、生存者がいるかもという噂が広まるかもしれない。そうしたら白い腕章の連中は犬を連れて戻ってくるだろう。そうなったら俺はおしまいだ。おまえの農場は森からかなり離れているし、もうすでに赤ん坊もいるじゃないか。町の噂にもなっていない赤ん坊だ。頼む、この小さい子達もかくまってやってほしい。少なくとも当面の間、もっと良い方法を見つけるまで」

女の子たちを隠してくれますか?