亡命者たち

リアよ。わたしのこと覚えてる? 最後に会った時、パパは上海経由のアメリカへの旅に ついて話していたわよね。パパは街中を歩き回って、数えきれないほどたくさんの人と話 して・・・内緒で隠し持っていたダイヤモンドを一握り、代金として渡さなくちゃいけな かったの。ドイツの国境を越える許可をもらうためにも、そして列車の切符を手に入れる ためにも、それからポツダムのクルーズ船の乗船券を手に入れるためにも。ジェノアから 上海へ往復切符よ。

片道のクルーズ切符は買えないのですって。わたしたちは片道切符で十分なのに、往復じ ゃなくちゃだめ。規則で決められているのよ。規則、規則。わたしたちの人生なんてもの はもうなくって、あるのは決められた規則だけ。ママは泣いているわ。隠そうとしている けど、目が真っ赤なの。パパは仕事場に2日こもって、ママとおばあちゃんが、まだ没収 されずに持っていた金のアクセサリーをすべて溶かしたわ。イヤリングやチェーンをね。 それで、もしもの時にそなえて金の小物を作ったの。息子たち用のベルトのバックルと、 わたしとママの靴のバックル。その金のバックルは、バレないように黒く塗りつぶされた わ。

ドイツの国境を越えるユダヤ人はみんな、たった10マルクと時計1個と指輪1個しか持っちゃいけないんですって。貯金も宝石も持っちゃだめ。なにもなし。だけどね、パパはなにも怖がることはないって言うのよ。お金はまた稼げばいいんだよ、なにが怖いんだい?って。 ママは血の気が引きそうになるくらい唇を噛みながら、パパになにか尋ねたわ。そうしたら、パパは、ほどんと聞こえないくらい小さな声で答えたの。切符は5枚しか手に入らなかったんだ。ママは泣きながらパパを拳でぶった。

わたしたちは6人家族。パパ、ママ、アーロン、トリク、わたし。それからおばあちゃん。

おばあちゃんを置いて出発する?